液温と表面張力の変化測定

接触角計・表面張力計コラムのページにご訪問いただき、ありがとうございます。

 

今回のテーマは「液温と表面張力の変化測定事例」です。

以前に「昇温条件下での表面張力測定」というテーマでコラムを書きましたが、その時にご紹介させていただいた「シリンジヒーター」と「チャンバーボックス」を使って実際に表面張力を測定。その値を測定してみようという内容になります。こちらのコラムもぜひご覧ください。 

上記のコラム「昇温条件下での表面張力測定」で、「シリンジヒーター」と「チャンバーボックス」がどのような装置なのかについてご説明しているのですが、改めてご紹介させて頂きます。

  • シリンジヒーター :測定対象液を任意の温度まで昇温させる装置。ディスペンサーも兼ねているので昇温させた状態で懸滴の作成が可能。
  • チャンバーボックス:シリンジヒーターを使って作成した懸滴の熱が逃げないように同温度の雰囲気を作る為の装置。
シリンジヒーター
チャンバーボックス

シリンジヒーター断面イメージ図
図1、シリンジヒーター断面イメージ図
図2、シリンジヒーター+チャンバーボックス断面イメージ図
図2、シリンジヒーター+チャンバーボックス断面イメージ図

ペンダントドロップ法による表面張力測定で作成する懸滴量はごく少量です(だいたい10μL前後になることが多い)。

懸滴量がごく少量の為、シリンジヒーターを使って液を昇温させた状態で懸滴を作成しても外気にふれた途端、懸滴の熱は奪われて常温へ戻ってしまいます(図1参照)。

そこでチャンバーボックスを用い、吐出される空間の温度(外気)をあらかじめ温めておこうとする装置です。シリンジヒーターの先端をチャンバーボックス内に挿し込み、チャンバーボックス内の雰囲気温度を上昇させた液温と同じにすることで懸滴を作成しても熱が奪われることなく、温度を保ったまま表面張力測定を行うことが可能になります(図2参照)。

表面張力測定中

写真は測定時の様子になります。

たくさんのケーブルが写り込んでいますが、温度管理の都合で熱電対やらヒーターのケーブルやらが多くなってしまうので、測定中は引っかけないように注意が必要です。

測定は今回、以下の条件で実施しました。

測定条件

測定1

液体の温度を変化させながら、表面張力の変化を測定。

  • プローブ液:純水
  • 温度条件:常温、40℃、60℃、70℃

測定2

加温状態の液体の表面張力測定。

  • プローブ液:真空ポンプ用オイル
  • 温度条件:90℃

測定する液を何にしようか検討しましたが、まずはベタに純水を選定。後は何か油系を・・・・と社内を見回した時にたまたま真空ポンプ用のオイルがありましたのでそちらを用いて測定しました。SDSも確認でき、液の情報がしっかりしていたのも選定理由の一つです。

測定結果については測定した表面張力値だけでなく、測定時のシリンジヒーターとチャンバーボックスの実測温度も合わせてご覧頂こうと思います。

測定結果

結果1 純水

表1.純水の表面張力測定結果

  表面張力(mN/m)
常温 40℃ 60℃ 70℃
測定回数 ※1 1回目 71.30 69.63 66.91

66.07

2回目 71.57 69.51 67.19 66.01
3回目 71.54 69.69 67.21 66.30
4回目 71.63 69.60 66.96 66.45
5回目 71.64 69.64 67.06 66.36
6回目 71.79 69.67 67.11 66.36
平均値 71.58  69.62 67.07 66.26

※1  1秒毎に合計6回測定

表2.測定時の温度条件と実測温度

  温度条件(℃)
常温 40℃ 60℃ 70℃
実測温度(℃) チャンバーボックス 25.3 39.3 59.7 69.9
筒先端 24.4 39.4 59.2 66.9
筒根元 24.3 43.4 67.2 75.3
グラフ1. 純水の表面張力 経時変化測定グラフ
グラフ1. 純水の表面張力 経時変化測定グラフ

結果2 真空ポンプ用オイル

  •  測定時のシリンジヒーター先端温度 :   90.2℃
  •  測定時のチャンバーボックス内温度 : 103.2℃
  •  常温時の表面張力は約31mN/m

表3.真空ポンプ用オイルの表面張力測定結果

  表面張力(mN/m)
1回目 2回目 3回目 4回目 平均 標準偏差
測定タイミング ※2 0秒 26.76 26.83 26.79 26.98 26.84 0.08
0.5秒後 26.38 26.43 26.38 26.20 26.35 0.09
1.0秒後 26.35 26.34 26.16 26.06 26.23 0.12
1.5秒後 26.45 26.35 26.39 26.10 26.32 0.13
2.0秒後 26.40 26.33 26.31 26.04 26.27 0.14
2.5秒後 26.40 26.42 26.36 25.98 26.29 0.18
3.0秒後 26.34 26.31 26.22 26.06 26.23 0.11

※2 0.5秒毎に連続合計7回測定

グラフ2. 真空ポンプオイルの表面張力 経時変化測定グラフ
グラフ2. 真空ポンプオイルの表面張力 経時変化測定グラフ

70℃の水の表面張力値は弊社知見に依りますが、今回結果よりもう少し低くなるはずです。

ちなみに表2の「筒先端」と「筒根元」というのは懸滴を作成する針の先端と根元とお考えいただければ結構です。

真空ポンプオイルの結果についてはまず、チャンバーボックスの雰囲気温度の方が10℃くらい高くなってしまいました。言い訳になりますが、温度の制御が結構難しく、少し慣れが必要です。

表面張力値については常温の時に比べて90℃の時では表面張力値に明確な差はありますので、しっかりとその機能を果たしていると言えるのではないでしょうか。

いかがでしたでしょう。同じ液体の表面張力でも液温が変れば、表面張力の値も変わるということが目で見てお分かりいただけたかと思います。昇温条件下での表面張力測定をお考えの御客様はぜひ一度、御連絡を頂ければと思います。

それでは今回はこのあたりで。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(T.S)