表面自由エネルギー計算の各理論比較測定事例

いつもお世話になっております。今回コラムを担当するのは営業技術部CSチームのT.Sです。どうぞよろしくお願いします。

今回のテーマは、私自身初めての為、大変興味深く実験させていただきました。

「表面自由エネルギー計算を各理論式について比較したら、どのような結果になるのか?」

表面自由エネルギー計算(以下、SFE、Surface Free Energy)当社内には私よりも経験豊富な測定員がおります。今回これをテーマにするにあたり相談したところ、「いい勉強になるかもしれないからやってみたらいいんじゃない?まずはやってみることが大事じゃないかな。何故その結果になるのかはわからなくても傾向くらいは何となくでもわかるかもよ?」と、上から目線のコメントを頂戴いたしました。

この他にも諸先輩方の前向きなお言葉をもらいましたので、今回頑張ってトライしてみました。ご興味ある方はぜひお付き合いください。

それでは早速測定と計算を・・・その前にもしかしたらこの記事が初めてのSFEコラム記事という御客様もいると思います。そんな御客様へ向けてSFE計算がどんなもので理論式はどのようなものかを簡単ではありますが、ご説明させていただきます。

 

表面自由エネルギー計算とは

ざっくり説明しますと「固体における液体の表面張力に該当するもの。液体の表面張力は直接測定できるが、固体の表面張力は直接測定できない。それ故に成分が既知の複数の試薬を使って接触角を測定し、その結果から固体の表面張力にあたる表面自由エネルギーが計算が可能(計算自体は接触角測定値を入力すると自動計算されます)。』といった感じです。

とまあこういうことなんですが・・・・これでもだいぶざっくりにしているのでご容赦ください。更にもう少し詳細な説明は下記リンクご覧ください。

さて、続いてはSFEの理論式とそれぞれの理論式で使う試薬についてです。一般的に用いられている理論式は5つあります。

  1. Owens and Wendt  
  2. Kaelble and Uy  
  3. Kitazaki and Hata  
  4. Wu  
  5. Acid-Base(酸・塩基)

この5つの理論式について使う試薬を表1にまとめてみました。

理論式 使用する試薬の数 ジヨードメタン ホルムアミド n-ヘキサデカン 1-ブロモナフタレン
Owens and Wendt  2      
Kaelble and Uy 2  
Kitazaki and Hata(北崎・畑) 3
Wu 2      
Acid-Base(酸・塩基) 3  

表1、表面自由エネルギー計算の理論式と主な試薬

複数の理論式で同じ試薬を使えるので今回のコラムでの出費は少し抑えられそうで安心してます。と言いましても表に記載した5つの試薬のうち、4つ使いますが・・・・。少し前置きの説明が長くなりましたがここからが本番です。今回行った測定の条件とその測定結果を以下にまとめます。一体どのような結果となったのでしょうか・・・・?

ちなみに今回は測定対象物表面を当社のUV表面洗浄改質装置にて親水化処理しました。親水化処理することで「水素結合成分値」が増加してSFE値の総和が大きくなるので、見やすくなるかと考えました。

今回使用した当社のUV表面洗浄改質装置に御興味ある方はこちらもご覧ください。

表面自由エネルギー計算比較測定実験条件
表2、今回の実験条件
測定液(試薬)  静的接触角(°)
測定1回目  測定2回目 測定3回目 平均値 標準偏差
純水 49.86 48.32 50.07 49.42 0.78
ジヨードメタン 36.31 35.99 37.93 36.74 0.85

n-ヘキサデカン

4.50 4.77 4.82 4.69 0.14
ホルムアミド 31.74 30.06 32.25 31.35 0.93

表3、静的接触角測定結果

こちらの結果を、表面自由エネルギー計算ソフトに入力すると、表4のデータが算出されます。こちらの計算ソフトは、装置導入後でもライセンスでご購入可能です。

入力する画像

SFE計算理論式 

SFE値(mJ/㎡)/成分値

 分散力(d) 配向力(p) 水素結合力(h) LW AB SFE値
Owens and Wendt  33.05 21.66 54.71
Kaelble and Uy 30.52 23.05 53.57
Kitazaki and Hata(北崎・畑) 27.51 24.38 16.14 68.03
Wu 29.07 26.69 55.76
Acid-Base(酸・塩基) 41.21 9.77 50.98

表4、表面自由エネルギー(SFE)計算結果

図1.各理論式のSFE値とその成分値の積上げグラフ
図1.各理論式のSFE値とその成分値の積上げグラフ

「Kitazaki and Hata理論」が他4つの理論式に比べて少し大きめに計算されるようですね。

他4式について結果に多少の際は見られますが、同程度の計算結果。私個人としては「Acid-Base(酸・塩基)理論」も数値が離れずに同程度というのはとても良い発見でした。 

「Acid-base(酸・塩基)理論」については当社でも出番が少なく、私は行ったことがなかったので、とても貴重な体験となりました。

さて・・・・実は私、まだ気になることがあるのですが・・・・、御察しの方もいるかもしれませんが、試薬が数種類の中から選べる理論式があったことを覚えていらっしゃいますでしょうか?これを同じ理論式で試薬を変えた場合、結果はどうなるのでしょうか?同じような計算結果になるのでしょうか?もしくはまた違った結果になるのでしょうか?SFEの次コラムではこの辺りについて深堀してみようかと思います。それでは今回はこのあたりで。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(T.S)