表面自由エネルギー計算~同理論で試薬を変えたら・・・?

いつもお世話になっております。今回コラムを担当するのは営業技術部CSチームのT.Sです。今回コラムのテーマはこちらです。

表面自由エネルギー計算(以下、SFEと略)において同理論で試薬を変えたらどのように結果はかわるのか。

こちらテーマは前回掲載したコラムで「SFE計算を全理論式で計算してみたら場合、結果はどうなる?」の続編という位置づけになります。ぜひ合わせてご一読お願いします。

前回はSFEの説明から入りましたが、今回もそれをしてしまうとまた長くなってしまう恐れがあるので「SFEとはなんぞや?」というところからお知りになりたい方は前回コラムをお読みいただいた後、本コラムに戻ってきていただければと思います。

表①にSFE理論式とそれに使用する試薬(一部)をまとめてみました。今回はこの理論式の中から 試薬の組合せが複数あるものについてSFE計算を行っていきます。調べてもなかなか欲しい情報が出てこないのがSFEです。それならばやってみるのが早いかもしれません。

今回試薬は「純水」、「ジヨードメタン」、「ホルムアミド」、「n-ヘキサデカン」の4種類をご用意いたしました。

理論式 使用する試薬の数 純水 ジヨードメタン ホルムアミド n-ヘキサデカン 1-ブロモナフタレン
Owens and Wendt  2      
Kaelble and Uy 2  
Kitazaki and Hata(北崎・畑) 3
Wu 2      
Acid-Base(酸・塩基) 3  

表1、表面自由エネルギー計算の理論式と試薬組み合わせ

今回計算してみる理論式は「Kaelble and Uy」と「Kitazaki and Hata」になります。 この2つの理論式は使える試薬も多く、組合せも多いので違いが明確にわかるのではないでしょうか?

測定条件

それでは以下、今回の実験条件になります。今回も測定対象物表面を当社のUV表面洗浄改質装置にて親水化処理しました。親水化処理することで「水素結合成分値」が増加してSFE値の総和が大きくなるので、見やすくなるかと考えました。

表2、今回の実験条件
表2、今回の実験条件

測定結果

測定液(試薬)  静的接触角(°)
測定1回目  測定2回目 測定3回目 平均値 標準偏差
純水 49.86 48.32 50.07 49.42 0.78
ジヨードメタン 36.31 35.99 37.93 36.74 0.85

n-ヘキサデカン

4.50 4.77 4.82 4.69 0.14
ホルムアミド 31.74 30.06 32.25 31.35 0.93

表3、静的接触角測定結果

理論式 Kaelble and Uy での表面自由エネルギー値

試薬組み合わせ SFE値(mJ/㎡)/成分値
分散力(d) 配向力(p)

SFE

純水・ジヨードメタン  30.52 23.05 53.57
純水・n-ヘキサデカン 27.51 24.84 52.35
純水・ホルムアミド 25.83 25.91 51.74
ジヨードメタン・n-ヘキサデカン 21.51 37.03 54.54
ジヨードメタン・ホルムアミド 31.78 18.35 50.13
n-ヘキサデカン・ホルムアミド 27.51 23.56 51.07

表4、理論式 Kaelble and Uy での表面自由エネルギー値

理論式 Kitazaki and Hata での表面自由エネルギー値

試薬組み合わせ SFE値(mJ/㎡)/成分値
分散力(d) 配向力(p) 水素結合力(h)

SFE

純水・ジヨードメタン ・n-ヘキサデカン 27.51 24.38 16.14 68.03
純水・ジヨードメタン・ホルムアミド 2.28 313.54 23.75 339.57
純水・n-ヘキサデカン・ホルムアミド 27.51 0.29 22.92 50.72
ジヨードメタン・n-ヘキサデカン・ホルムアミド 27.51 24.38 12.87 64.76

表5、理論式 Kitazaki and Hata での表面自由エネルギー値

試薬別の「Kaelble and Uy」理論式におけるSFE値とその成分値の積上げグラフ
図1、試薬別の「Kaelble and Uy」理論式におけるSFE値とその成分値の積上げグラフ
試薬別の「Kitazaki and Hata」理論式におけるSFE値とその成分値の積上げグラフ
図2、試薬別の「Kitazaki and Hata」理論式におけるSFE値とその成分値の積上げグラフ

「Kaelble and Uy理論」では試薬によって計算値に差はあるもの、驚くほどの差は無いような気も・・・・それと言うのも「Kitazaki and Hata理論」の試薬による差がかなりのバラつきが出た為、そのように感じられるだけなのかもしれません。

だまあ今回はステンレス板(SUS304)を親水化処理した物を試しに1枚やっただけですので、この1枚だけの結果を見て「どうだ、いやこうだ」と語るのはさすがに時期尚早かと思います。もっと回数を重ねて慎重にやるべき問題のような気が私はしております。

ただこの結果からほぼ間違いなく言えることは、、、、

  • 計算理論式は安易に変更せずに同じもので進めた方がよさそうであること。
  • 試薬は入手のしやすさも考慮して可能な限り、同じものを使った方がよさそうであること。  

これからもSFEついて参考に実験をやっていこうと思います。「こんな実験結果はないか」といったリクエストも承っておりますので、ぜひよろしくお願いします。それでは今回もありがとうございました。 

(T.S)