毛髪の性質評価~液量の経時変化測定~

いつもお世話になっております。

今回は毛髪の濡れ性評価に関するテーマです。以前に毛髪の接触角測定についてはコラムを書かせていただいておりますので、お読みいただいている方は、

毛髪の接触角測定はなかなか手強い

ということは御認識いただいているかと思います。

もしまだの方は、ぜひこちらのコラムをご一読ください。

さて、毛髪の性質評価を接触角測定で行う場合、傾向として違いが明確に表れにくいことがあります(あくまで弊社知見による見解ですが・・・・)。毛髪の一番外側には「キューティクル※」と呼ばれるうろこ状の膜が存在しいていて、このキューティクルは程度の差はあれど万人が有しているものになります。

程度の差はあるので接触角に明確な違いが出る時もあっていいと思うのですが、それほど顕著には出たことはありません。それに測定自体もすごく難しいです・・・。

※キューティクル・・・ケラチンというタンパク質からできており、撥水性を有する。

そこで本コラムでは毛髪の性質評価について別の切り口として接触角ではなく、液量変化での評価をやってみようと思います。

当然毛髪へ着液させた液滴は毛髪へ吸収されていきます(厳密には毛髪への吸収以外に蒸発もあるのですが・・・・)。

液量変化での評価であれば接触角に明確な差は出なかったとしても、液吸収の具合を経時変化測定することで毛髪の性質の比較、評価ができるのではないかと考えました。これが実用的であるかどうか、試してみようというのが今回コラムの主旨になります。それでは今回もよろしくお願いします。

今回の測定サンプルは、下記4サンプルをご用意しました。入手ルートはあるスジからです。 

  1. 健常毛
  2. ブリーチ毛
  3. ブリーチ毛(疎水処理)
  4. ブリーチ毛(弱)

さて、今回は新しい切り口での評価を試みる為、測定方法も従来とは違うことを考えています。懸滴量(≒着液量)ですが、「1μL」で行います。日本人の毛髪の太さがおおよそ80~100μmですので、これはかなり大きい懸滴になります。

測定対象が極小物の場合は懸滴も小さくするのがセオリーです。但しこれが毛髪の場合はその髪質にもよるのですが、懸滴が小さすぎることでキューティクルの撥水性質に負けてはじかれてしまい、着液できないことがあります。

毛髪に懸滴を着液させる・・・実際にはどんな画像となるのでしょう・・・。

 

百聞は一見に如かずですので、こちらの画像をご覧頂きたく。

毛髪側面方向より測定
毛髪側面方向より測定
毛髪断面正面方向より測定
毛髪断面正面方向より測定

これは以前、毛髪の接触角測定を「セオリー通り」に行った際の測定画像になります。この時の懸滴量が約0.1μLですので、懸滴量1μLというのはかなり大きいということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

今回は懸滴を大きくすることにより液滴自重で着液させやすくしますが、このような極小物の接触角測定においてこの方法は「セオリー外」と言えます。ここが従来の測定方法とは違うところになります。

ちなみにこの時は髪質に助けられ、懸滴量を絞っても着液できた次第です・・・・。

さて、それでは測定していきましょう。測定条件は下記の通りです。

【測定条件】

  • プローブ液:純水
  • 懸滴量:1μL ※作業性(着液作業)と液量変化を顕著にすることを目的に決定。
  • 使用装置:接触角計 B100
  • 測定時間:300sec
  • 測定方向:毛髪の側面より測定実施

それでは測定結果です。まず懸滴1μLを毛髪に着液させる・・・どうなったのでしょうか。

懸滴量が大きすぎて毛髪から零れ落ちてしまう?そもそも懸滴が重すぎてそのまま着液もできず落下してしまう?結果はこのようになりました。

健常毛画像
健常毛画像
ブリーチ毛画像
ブリーチ毛画像

液滴は落下することもなく、零れ落ちることもなく、毛髪に懸垂しました。ブリーチ毛の方はキューティクルが剝がれていることに依るのかは定かではありませんが、毛髪の周りにまとわりつくように濡れました。懸滴の形状がいびつな為に解析のベースライン位置がおかしい位置にありますが、この位置で偶然にも着液量が1μLに近いので再解析は今回不要とします。

次に液量の経時変化グラフを見ていきましょう。

各毛髪における液吸収の経時変化グラフ
各毛髪における液吸収の経時変化グラフ

液の吸収量は・・・「ブリーチ毛」>「ブリーチ毛(弱)」>「ブリーチ毛(疎水処理)」>「健常毛」となりました。キューティクルが撥水性質ということを考えるとこの結果は納得できるのではないでしょうか。

 

また液量の吸収速度について実際には計算しないと数字で比較はできませんが、グラフを見た感じでは最も吸収速度が速いのはブリーチ毛のようです。キューティクルが剥がれてしまっているせいで撥水性質が下がった結果とも考えられます。

今回の結果を見る限り、このような評価方法もできると感じています。もしこのような測定、評価に御興味ある御客様がいらっしゃいましたら、お気軽にあすみ技研までご連絡ください。

 

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。    

(T.S&R.H)