column:懸滴量の考え方
よくあるご質問にも簡単に記載させていただきましたが、『(静的接触角を測定する時に)付着させる液量(懸滴量)についてはどのように決めればいいのでしょうか?』というお問い合わせをよくいただきます。
JISなどの取り決めや過去の論文を見渡しますと、1~4μリットルの推奨が散見されますが、色々調べても「接触角測定の懸滴量は○○μリットルとすべきです」と断言しているような資料はありません。
このようなご質問を頂いた時は、「お客様の欲しいデータに合わせて決めるべきです」とご返答させていただいています。ただし、各種データを比較する時は、懸滴量は同じにすべきです。
例えば、「小雨が降っている時の、レインコートの水滴の撥水具合」を研究しているのならば、小雨の液量に合わせるべきですし、コーティング液の濡れ性を比較検証する場合ならば特に懸滴量にこだわる必要はないかと思われます。
ただし、あまりに懸滴量が多くなりますと、液体自体の重さで濡れ拡がりやすくなります。またあまりに懸滴量が少ないと吐出する針先から懸滴が離れないという実務上の問題が発生します。
懸滴量と接触角測定事例
実際に懸滴量を変化させ、同じワークに対する静的接触角を測定してみました。
ワーク | :ポリスチレン |
懸滴物質 | :市販の精製水 |
測定機種 | :B100 |
1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | 平均 | 標準偏差 | |
懸滴量 | 接触角 | 接触角 | 接触角 | 接触角 | 接触角 | 接触角 | σ |
0.1μL | 69.49 | 71.68 | 68.18 | 69.25 | 68.66 | 69.45 | 1.35 |
1.0μL | 70.33 | 66.29 | 66.87 | 70.86 | 70.55 | 68.98 | 2.21 |
3.0μL | 62.37 | 63.62 | 61.90 | 63.37 | 65.07 | 63.26 | 1.23 |
5.0μL | 58.93 | 59.96 | 60.48 | 60.07 | 60.97 | 60.08 | 0.76 |

あくまで精製水とポリスチレン間でのデータですが、懸滴量と接触角がきれいに反比例の関係になりました。当然液体自体の表面張力などヤングの式に基づいた関係の上に成り立ちますので、傾きは固体と液体により変化するものの、液体の質量にはある程度依存することがわかります。
(例えば、非常に表面張力の大きい水銀で行った場合、接触角はあまり懸滴量には依存しないと思われます。)
以上から考えると、純粋にヤングの式が成り立つ接触角を求めるならば、実作業可能で(針先から液体がちゃんと離れて、固体試料側に付着してくれる)できる限り少ない懸滴量が推奨と言えます。そしてそれ以上に重要なのが、データを比較する場合、懸適量を一定にするということです。
ちなみにJISなどで4μLとか多めの液量が推奨されているのは、CCDカメラなどが普及する前の接触角を覗いて測定するタイプの時代に制定されていることによります。