接触角計の使用環境について

いつもお世話になっております。あすみ技研、接触角計コラム担当のT.Sです。

今回は「接触角計の使用環境」というテーマです。

当社の接触角計の推奨使用環境は・・・・

室温:5℃~45℃、湿度80%未満で且つ、結露、振動、気流、磁場等の影響を受けないこと。


上記のように取扱説明書には記載をさせて頂いております。ではそこから外れる環境下で使用した場合に、どのような不具合が起こり得るのでしょう?本コラムでは御客様から実際にあったご質問を具体例に挙げて想定される不具合についてご説明します。

御客様からのご質問①:低温環境下での測定

低温環境下での測定というのは、このお問合せを頂くまで私は聞いたことがありませんでした。低温環境下測定について考える良い機会を頂いたなと感じたことを覚えています。

具体的には「0℃前後の環境下で傾斜法による動的接触角の測定は可能ですか?」というお問い合わせでした。


ちなみにですが、弊社接触角計で傾斜法による動的接触角測定が可能な機種は「B100W」という機種になります。御興味ありましたらお気軽にお問合せください。

装置型式 B100W
静的接触角 液滴法(瞬間、経時変化)
動的接触角 傾斜法(滑落法)
解析方法 Θ/2法、
tangent法、
真円フィッティング法、
楕円フィッティング法

話は戻りますが、「0℃前後の実験環境下で濡れ性分析」とのことでしたので、その御客様には幾つか心配な点をお伝えしました。

①装置が凍結した場合、駆動部分に故障の可能性

これは低温環境下に装置を長時間置いた場合に限られます。この「長時間」という表現が曖昧で具体的に何時間と申し上げられないのがモヤモヤするところではありますが・・・。傾斜法測定は接触角計本体を傾斜機構を備えたユニットで傾斜範囲0°~90°まで傾けての測定となります。0℃前後の実験室内に短時間且つ、常に装置を動かしている状態であれば0℃前後の実験室でも使用可能かもしれません。

可能かもしれませんが、御使用は控えてくださいますよう、お願い申し上げます。


ですが0℃前後の実験室内で装置を動かしていない時間が長い場合、その間に駆動部が凍結してしまうと次に動かしたときに駆動部が破損する可能性は十分に有ります。

細かい話をすれば試料台移動ステージのX軸やZ軸は可動部なので破損する可能性はあるのですが、今回の話からは除かせていただきます。長くなってしまうので・・・。  

さて、写真が接触角計B100Wの駆動部分です。

この部分が故障してしまうと、傾斜法測定が不可能になってしまいます。

低温環境下での測定を実施する場合には装置ごと冷やすのではなく、局所的に冷やした環境を整えてあげれば測定は可能と思います。現在はこのようなお問い合わせの件数が少ない為、弊社でご対応はできないのですが今後増えてきましたら局所的に冷やした環境を作れるオプションの御用意をしていこうと考えています。

②光源レンズやカメラレンズが結露した際の光量不足、視野不良

もしかしたら駆動部の故障よりもこちらの方が先に発生して測定ができなくなってしまうかもしれません。

「霜」とは?・・・0℃以下に冷えた物体の表面に空気中の水蒸気が昇華(固体化)し、氷の結晶として堆積したもの。(出展Wikipedia)

弊社接触角計の光源はLEDライトです。LEDライトは従来の電球とは異なり、電気を直接光に変えるので発熱量が少ないという特徴がありますが、発熱量が少ないということはその分凍り付きやすい。つまり光源のレンズは凍結しやすいということにもつながってきます。カメラレンズは熱を発生しませんので、光源レンズよりも更に凍結しやすいのではないでしょうか。

御客様からのご質問②:高温環境下での測定

次に高温環境下での測定についてのご質問です。この類のお問合せは以前から頂戴しているのですが、ここ最近急増しています。

お問合せ内容としては・・・

「雰囲気温度を60℃、80℃、100℃というような条件での接触角を測定したい」

「液体側温度60℃での表面張力を測定したい(可能であれば雰囲気温度も管理)」

と、いうような内容になります。

 

このような場合、低温環境下と同様に局所的に昇温させた環境を整えられるオプションがあるのが望ましいと言えます。では何故望ましいのか。装置を高温環境下においての測定ではどのような不具合が起こる可能性があるのでしょう。

熱伸びによる基板の破損

高温環境下ではどのような材料も「熱膨張」します。接触角計と解析用PCには電子基板が使われていますが、電子基板に使用されている部品はそれぞれ熱膨張率が異なる為、温度上昇によって熱応力が発生します。これは各部材の熱膨張率が異なることが理由で、熱膨張率の差が大きい部材同士の組み合わせでは熱応力は単純に大きくなります。常温(または低温)状態と高温状態の繰り返し。長期的な熱応力の繰り返しによって熱疲労が発生し、機械的な劣化や破壊が発生する可能性があります。熱は装置にとって負荷となり、部品の劣化や故障を誘発し信頼性に影響を与えることも有り得るのです。

火傷の可能性

これは装置の不具合というよりは測定作業を行う担当者に対する不具合、危険に該当します。当たり前すぎて書くかどうか、正直迷いましたが、当然ながら高温になっているものに触れるとやけどを負います。また火傷と言っても低温やけどについては痛みをともなわず気づかないうちに進行することが多いので、通常のやけどよりも重症化する場合もあります。

40~50℃という少し熱めの温泉程度の温度でも、長時間皮膚に作用すると低温やけどを起こす可能性があるようです。局所的に高温環境を整えられるオプションについては現在弊社ではプロト機を製作し、データ取りを行っている最中です。これについては別コラムでまたいずれご紹介させていただきます。

御客様からのご質問③:高湿度環境下での測定

最後に高湿環境下での測定についてのご質問です。このお問合せは一度だけなのですが、頂戴したことがありますのでご紹介します。詳細についてはご教示いただけなかったのですが・・・・

「高湿環境下での濡れ性測定を考えており、湿度80%程度の環境での装置使用は可能?」というお問合せでした。これについてもお問合せ頂いた御客様には大変申し訳ありませんでしたが、丁重にお断りさせていただきました。

 

電子機器の類は高温にも弱いですが,湿度にも弱いです。

その理由は湿度が高ければわずかであっても結露が生じて部品がショートする場合があるからです。また装置に樹脂材料が使用されている場合、その材料に吸水性がある場合には長期的には膨潤する可能性も考えられます。ちなみにですが湿度も極端に低い場合、静電気放電(ESD)というものが発生して機器の停止や損傷を起こしたりする場合もあるようです。

いかがでしたでしょうか。つまるところ、室内使用を前提としている装置全般に言えることとして、空調された室内での使用が望ましいと言うことになってしまいます。低温環境、高湿環境を局所的に整えられるオプションについては弊社ではまだご用意できておりませんが、先ほど書かせていただいた通り「高温環境下」のものであればプロト機を製作して現在データを取得中です。

御興味のある御客様は別コラムでご紹介しておりますので、そちらもよろしくお願いします。

それでは今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

(T.S)